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vol.026 月光仮面の隠れ家

「月光仮面」皆さんご存知ですか。


「われは月よりの使者、正義の味方なり」 日本が高度成長に入る前の時代、日本中の子供たちを熱狂させたテレビドラマのヒーローです。 白い頭巾とサングラス。風になびく白マント。 路上で悪を働く悪者たちに向かって、いつも高いビルの上から飛び降りてくる天使の化身。


そして我々。 白いマントの代わりにヨレヨレの風呂敷のマント。カッコいい白タイツの代わりに、薄汚れた半ズボン。 でも、心は完全に月光仮面。

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遠い昔の少年時代、そんなふうにして遊んだものです。 なにしろ、月光仮面を演じるには高いところから舞い降りなければならなかったため、自然に木登りや塀登りがうまくなりました。


木の上や塀の上から見下ろす風景は、日頃見慣れた景色とは違っているため、その上にいるだけで、いろいろなことが解りました。 表向きはきれいにディスプレイされた床屋さんの屋根が、実はボロボロのトタン張りだったり、無愛想なお婆さんの住んでいる家の裏庭に、可愛らしい鉢植えの花がいっぱい並べられていたり…。そんな発見が、実に新鮮な気分にさせてくれました。


しかし、やがて僕らは正義のヒーローになりすますような無邪気な遊びから遠ざかり、木によじ登ったり、塀から飛び降りたりすることから卒業するようになりました。それと同時に、木の上にいることで見出された様々な発見も遠のいていきました。


“地に足がついた…”という表現があるように、大地にしっかり立ったときの安定した視点を持つことが大人になるためには必要だと、私たちは教育されてきました。 「木に登ったときのように、不安定な位置にいては現実的な判断はくだせない」 世の大人たちは、みんなそのように考えてきたからでしょう。


私も自分なりにここ何十年、そのような「大地の視点」で物事を眺めてきました。月光仮面に成りすました少年時代に、木の上で見た発見や感動を捨て去り、ひたすら大地にしっかりと根をおろすように努めてきました。


でも、大地を踏みしめて歩いていた時には見えていたつもりの「経済成長」も、「科学の輝かしい発展」も、いつのまにか霧に包まれたようにかすんでしまい、気づいてみるとまわりは壁だらけ。もう一直線に歩いていける道も、幸せが約束された出口も見えなくなりました。 これから先どう歩けばいいのか。どこに向かって走ればいいのか……。


テレビ、インターネット、エアコン、自動販売機、携帯電話。 世の中は便利になったけれど、この先にどんな道が広がっているかを教えてくれるものは何一つありません。


何か変だ。何かおかしい。


僕らの少年時代。家族で食事をとるときは、薄暗い電灯のもとで円卓を囲み、父親は「こら、何ばしょっとか」 母親は「あんた、何しよるとね」 「父ちゃん、静かに食べろ」 そんな会話が淀みなくくり返される、貧しいながらも元気な家族の団らんがありました。 テレビがなかった代わりに、家族がお互いの目をみつめながら話し合う時間がありました。 食事中に今日のニュースや明日の天気が分かることはありませんでしたが、楽しそうに語り合っている父と母の姿を見ているだけで、生きていくために必要な情報がすべてはっきりと伝わってきました。そして、自分の進むべき道もしっかり見えていたように思えます。 そうそう、あの時代の親たちは、子供が木に登っているのを見ても、それをとがめたりする親は一人もいませんでした。 今は木に登る子を見つけると、ほとんどの親は「危ないから降りなさい!」というそうです。ある学校で、遠足の時に木登り大会を行ったら、上まで登れた子は一人もいなかったという話も聞きました。


もう一度、月光仮面になってみませんか。 エィ、ヤッと木の上から飛び降りたあの頃に還ってみませんか。


今、私は自分の家の近くにあるキャンプ場に「ツリーハウス」を作っています。少年時代に木の上で感じた疑問や楽しい発見を思い出すために、木の上に小屋を建て、そこで暮らせるような施設を開発しています。 同じ気持ちを抱いていた男たちが集まってきて、みなで意見を出し合い、助けあって、「月光仮面の隠れ家」を手作りで作成しています。


やっぱり木の上から見る景色は違います。地面に立っているときに見る景色とも、ビルの上から眺める景色とも違います。 ちょっと頼りない気持ちにさせてくれる独特の浮遊感。でも、それがいいんです。無数の葉や枝によって濾過されてくる優しい陽光と甘い風。木の上にいると、地ベタにいるときよりも、数倍自然の動きに敏感になります。 あの丘の向こうに見える川がこんなに広かったは…。 あの山の斜面はこんなに急だったとは…。 ただ立っているだけでは見えなかった様々な景色が一挙に目の前に広がります。


ツリーハウスには、やっぱり少年時代に感じたワクワクするような発見がたくさんありました。


私はキャンピングカーを作ることを仕事としている者ですが、考えてみれば、キャンピングカーこそ「動くツリーハウス」かもしれない! …ふと、そんなことを思う今日この頃です。

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