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vol.037 私をキャンプに連れてって


コーラというと、日本ではコカ・コーラとペプシコーラの両方が売られています。 もちろん、日本で圧倒的なシェアを誇っているのはコカ・コーラ。ペプシの方は、とてもそれに追いつきません。 ところが、本国アメリカでは、ペプシの方がメジャーなんですね。


昨年の秋、米軍基地にいるアメリカ人7~8人のグループとキャンプ場で一緒になったことがあります。


「Hey You Drink Cola?」

彼らがニコニコ顔で差し出したのは、ペプシコーラのでっかいボトル。 そして、自分たちもみなペプシを取り出して、水代わりにガブガブと飲み干していました。


でも、日本ではコカ・コーラの方が知名度が上。 それは、なぜなのか?


やっぱり、アレですよ、アレ! 「スカッと爽やかコカ・コーラ」 というやつ。


コカ・コーラの日本向けのCMでお馴染みとなった、あの「スカッと爽やか」というイメージ戦略ほど、日本人の心を捉えたものは他にありません。


海や山、そして湖や高原。 そのような爽やかなフィールドで、清潔感あふれる若者たちが、陽気にゴクゴクと飲み干す。 そのCM効果が、日本の消費者に「コカ・コーラ」という商品キャラクターをすっかりプリンティングしてしまいました。


キャンプ場という存在を、このコカ・コーラのCM戦略のように、強力なイメージとして訴える方法はないだろうか?


最近、秋風が吹く頃になると閑散としてしまうキャンプ場を眺めるたびに、私は、そのようなことばかり考えるようになりました。 なにしろ、キャンプ場運営者の一番の悩みのタネは、オフシーズンのお客様の確保だとか。 彼らは、みな秋から冬の季節になるとお客様がキャンプから離れてしまうと嘆きます。


なぜ、日本のキャンプは夏だけに集中するのか。 私には、それが解せません。 暑さと虫に悩まされる夏よりも、むしろ透きとおった空や風に恵まれた秋や冬の方が、焚き火とも相性がよく、私には理想的なキャンプシーズンに思えます。


でも多くの日本人にとって、「キャンプ」といえば夏。 それ以外の季節になると、日本人の頭から「キャンプ」という概念が消えてしまうかのようです。


キャンプは、「冷やし中華」や「かき氷」ではありません。 夏だけの季節商品ではないのです。 オールシーズン楽しめるものなのに、それが理解されない。


なぜだろう… ずいぶん考えました。


答はひとつ。 やっぱり、キャンプがまだ国民的なレジャーとして認知されていないからなんですね。 コカ・コーラの「スカッと爽やか」ほどには、人々の意識に浸透していないのです。 では、キャンプを国民的なレジャーとして認知してもらうには、どうしたらいいのか?


「スカッと爽やか」と同じように、何かキーとなるキャッチと連動させればいい!


そこで思いついたのが、 『私をキャンプに連れてって』


これ、もちろん昔流行った『私をスキーに連れてって』のパクリです。


ま、実際には、特にこのキャッチを使わなくてもいいのです。 要はキャンプを、若者も憧れる夢のレジャーとしてイメージ付けできる戦略が展開できれば、何でもいいわけです。


原田知世が爽やかなヒロインを演じた『私をスキーに連れてって』は、爆発的なスキーブームを巻き起こし、日本のスキー人口を増やすことに大いに貢献しました。


で、それをヒントに思いついた『私をキャンプに連れてって』。 そのシナリオを、ちょっとご披露しましょう。


ヒロインは、天体観測が好きな女子研究生。 彼女は、将来天文学者になることを夢見ています。 しかし、貧乏なので、まだクルマを持つにいたらず、夜は星の見える場所まで重い望遠鏡を自転車で運んで、四苦八苦。 そんな苦学生の役を、そう、柴崎コウさんなら見事にこなしそうです。


その彼女を、ほのかに慕っている年下の青年。 彼は、なんとか彼女の力になってあげたいのですが、引っ込み思案の性格でもあり、どうしたら良いのか分かりません。 こういう役だったら、「嵐」の二宮和也クンなんかがうまそうに思えます。


二宮君の知り合いに、キャンプ場を経営している初老の男がいます。 お客の来ないわびしい民営キャンプ場を細々とやっているのですが、どちらかというと、諦めムードで生きている男です。 今年いっぱいで、そろそろキャンプ場を閉園しようかと思っています。


オホン…! この役は私が務めます。 ウソ。 イメージとしては田中邦衛さんみたいな渋い役者がいいですねぇ。


二宮君は、そのさびれたキャンプ場のオーナー田中さんに、こう尋ねるわけですね。


「ねぇ、キャンプ場ってさぁ、星を観察するのに適した場所なの?」 「ああ最適だね。テントを張って、温かいコーヒーをすすって、夜になるのを待てばいい。 そうして迎える星空は、見上げただけでもうナチュラルハイの世界さ。キャンプ場を照らす星は、大人には子供の感性がよみがえらせ、子供には大人の智恵を授ける。 キャンプ場は、昔から“詩人と哲学者”を育ててきた場所なんだ」 「ふ~ん…そうかぁ。…今度星座の観察が好きな先生を連れてきていいかな?」 「ああ、いいとも」


この後のストーリー、だいたい想像できますか?


二宮クンは、田中さんから教えてもらったキャンプのノウハウを生かして、柴崎さんの天体観測を助けます。 柴崎さんは、それによってキャンプの魅力に目覚め、どんどんアウトドアの世界に引き込まれていきます。


そして田中さんは、その二人の姿を見て、「キャンプには若者の心をゆさぶる力がある」ということを再発見。 経営にもやる気を取り戻し、それにつれて、キャンプ場にもお客さんの足が戻ってきます。


いいでしょ? こういうストーリー!


こういう企画、どこかのテレビ局か映画会社が、取りあげてくれないでしょうか。企画料なんていりませんから。


その代わり、爆発的なヒットを記録して、全国のキャンプ場へオールシーズンお客さんが来てくれるようにしてください。


もう季節の上では秋。 ちなみに星空は、気温が低くなればなるほど、澄み渡っていきます。


【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■


(社)日本オート・キャンプ協会さんの発行する「2008オートキャンプ白書」によると、97年に1,375万人いた日本のオートキャンプ人口は、07年には720万人にまで落ち込んだと報告されました。 同白書によると、一過性のブームとしてのキャンプは下火になったとはいえ、逆に健全なレジャーとして定着する傾向がはっきりしてきたとのこと。 それにしても、97年当時のほぼ半分というのは淋しい限りです。


キャンプ人口減少の理由は、長引いた不況、少子化の進行、さらに子供たちを自然に親しませるより塾やお稽古事に専念させるという家庭教育の変化など、さまざまな要因が考えられますが、若者の参入がない、ということが一番に挙げられるようにも思います。


1987年に三上博史、原田知世の主演で東邦系で公開された『私をスキーに連れてって』は、若者に圧倒的に支持されることによって、大スキーブームを巻き起こしました。 この映画を見てスキー場に足を運ぶようになった世代は、いまだに自分たちを「私をスキーに連れてって」世代と自覚し、スキーが衰退したといわれる現代においても、コアなスキーファンを形成しています。


ところが、今のキャンプ場には若者が来ません。オートキャンプを楽しむ人たちの年齢層の84%は30歳代と40歳代に占められ、30歳未満と人となると、とたんに下がって5.2%。20歳未満の人は、わずか0.2%です。 もう、これだけで、日本のオートキャンプ場というのは、お父さんが家族サービスをするための場所でしかないことが分かります。 しかも、子供が成長してキャンプに着いてこなくなると、自分たちもキャンプを卒業してしまうケースが多いのです。


これでは、日本のオートキャンプは、少子化が進行していくにしたがって、そのまま衰退していってしまうかもしれません。


学生でも遊べる経済的なレジャー。 キャンプ場も、これからはそう謳うことによって、若者の誘致を企画しないと、経営が難しくなってきてしまうかもしれません。


ところが、残念ながら、多くのキャンプ場には、若者が魅力を感じるアピールを行うほどの広報力がありません。 今回の池田さんのエッセイは、ズバリそこのところを突いたテーマを展開しています。


キャンプ場が若者にとって魅力的な場所として感じられるようになるには、そこに魅力的な若者がいるというアピールが欠かせません。


池田さんのシナリオが憎いのは、若い主人公たちの活躍の影に、分別をわきまえた中年オヤジを一人絡めているところですね。 このオヤジが、キャンプ場のマナーやルールを若者に教えるとともに、逆に、若者たちから、キャンプが人間に与えるパワーのようなものを教わるという構成になっています。


だから、ここでは「縦軸と横軸」が交差しています。


つまり、若い二人がキャンプの魅力を共有するという横軸にオヤジ文化の縦軸が加わるわけですね。 ともすれば、世代間交流がますます欠けていくと指摘される現代社会。 そういう世相が広がるなかで、キャンプこそ、世代間交流を復元する鍵だというメッセージが込められているわけです。


池田さんが指摘されているように、キャンプ場にとって、オフシーズンの稼働率を上げることは至上命題になりつつあります。 そのオフシーズンを埋める客層として、今までは、定年退職を迎えた団塊の世代がターゲットになっていました。 もちろんそれも大事ですが、それと同じくらい、社会人よりは自由な時間を持てる学生を誘致することも大事なことでしょう。 今回のエッセイは、そのことを示唆するものとなっています。


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