「カッコイイとは、こういうことさ」これは、宮崎駿のアニメ『紅(くれない)の豚』の中で、主人公のポルコがつぶやいたセリフです。 このフレーズが、もう何年間も私の頭の中で鳴り響いています。
ポルコは豚の顔をした紅色の戦闘機乗り。アドリア海の周辺に出没する海賊ならぬ「空賊」を捕まえて賞金を稼いでいます。 彼のプライドは、ただひとつ……オレはアドリア海で最高の飛行機乗りさ……彼はそのことに絶対の自信を持っています。
それともうひとつ。何十年も頭の中に残っているのは、もう40年以上も前に読んだ西村寿行の『瀬戸内殺人海流』に登場する漁師です。その漁師は瀬戸内海から消えてしまった「幻のボラの大群」を復活することになりふり構わず情熱を注ぎます。 なぜか、彼もカッコイイ。
ポルコの理解者は、とびきり美人の「ジーナ」。 漁師の理解者は、独特の個性、こちらも美人の「サキ」。
ポルコも漁師も、たぶん年齢的には30代だったかな。 男としては、いちばん脂が乗りきっていて、女性からモテモテの世代。 そんな彼らをいまだにカッコイイ! と感じているこの私はというと、若い女性とは縁のない生活を送る、還暦を過ぎた初老の職人。
そんな私のそばには、美人にはちょっと遠い、でも誰からも愛されているうちのカミさんと、「お父さん、服装と身だしなみは年齢相応にちゃんとしてよ」といつもクレームを付ける息子と娘。
そんな彼らにいつか言ってみたい。 「カッコイイとはこういうことさ」
それを伝えるために始めた私のムーブメント。
それは、私の住んでいる地元の彼杵川(そのぎがわ)にアユを戻す運動です。 かつてはアユのとび跳ねる清流として知られた美しい川から、アユの姿が見えなくなって30年経ちました。 その彼杵川にアユを戻そうというのが私の夢。 その夢に共感してくれた仲間たちと、もう5年ぐらいワイワイガヤガヤと楽しく活動しています。
もちろんその第一の動機は、郷土の自然を守ろうという意識。 でももう一つある、隠れた動機……。
ポルコがジーナにつぶやいたように、漁師がサキにつぶやいたように、いつか、カミさんに、息子と娘に、言ってみたい。
「カッコイイとはこういうことさ!」
おっともう一つ、ふろくがありました。 この夢が実現した頃、私はとびきり美人のジーナと出会います。 でもその時にはこう言おうと思っています。 「私には妻と、二人の子供と3匹の犬(これは関係ないか…?)がいます。 どうぞ私のことはあきらめてください」と……。
【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■
池田さんが進めているアユが棲める川を取り戻す活動。 それは、豊かな自然を取り戻すことであると同時に、観光客誘致にも欠かせない活動であるのかもしれません。
「地方の活性化」 という言葉は、どの地方のどのような自治体からもたいへん大きなテーマだと言われ続けてきました。 そして、その活性化の中軸を担うのが観光資源の開発だというわけですが、そこで勘違いされているのが、近代的なハコモノを造るという発想。 テーマパークのようなアミューズメント施設を造ったり、地場産業の由来や製造システムをアピールする記念館のようなものを造ったりしなければ観光客を誘致できないのではないかという発想が、逆に観光客の足を遠ざけているという話をあちこちで聞きます。
そうではなく、その地方に行かなければ見られない美しい自然、豊かな自然を復活させることの方がほんとうの意味での観光資源の開発につながる、と多くの専門家が語り始めるようになりました。
ハコモノを建設するよりも、豊かな自然を回復させることの方がよほど人的労力を必要とします。おそらくコスト計算すると、ハコモノに投じる費用の数倍はかかるかもしれません。 しかし、どこの自治体においても、そんな費用を捻出できないのが現状。 そこで、自然を取り戻すという運動は、そのほとんどがボランティア活動になります。
そういうボランティアの熱意はどこから生まれるのか?
「カッコイイとは、こういうことさ」
池田さんの例をとるまでもなく、心を寄せる伴侶や家族にそうつぶやいてみたいという熱意だけが、それを可能にするのかもしれません。
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