「少年探偵団」 知っていますか?「ぼっぼっ、僕らは少年探偵団♪」 というテーマ曲で始まる50年以上昔のラジオ番組です。子供のころは、なぜか屋根の上で、小さな鉱石ラジオから流れるこのテーマ曲を聞いていました。
『ぼくら』 『少年画報』 『冒険王』。 僕らの時代にはそういう雑誌があって、本がボロボロになるまで、子供同士で回し読みしていました。 読んだら必ずみんなが主人公。 誰もが漫画の中のイガグリ君や赤胴鈴之助、スポーツマン金太郎のようなヒーローになれそうな気がしたものでした。
あれから、もう半世紀経ちましたが、僕らの世代のハートのど真ん中には、老いても少年時代に魅せられたヒーローたちの勇姿がで~んと鎮座しています。
だから、今でも何かあれば、僕らの世代は “少年探偵団” に参加したくなってしまいます。
ぼっぼっ、僕らは少年探偵団♪
多分、元気に、そして少しでもカッコ良く老いを重ねたい、これからもずーっとそういう気持ちで生きていたいと思っているのかもしれません。
だから、僕らのことを、「ジジイ」 って呼ぶな、「オッサン」 と呼んでください。 僕らは、まだ爺ちゃんじゃないぞ、オッサン探偵団なんですから。
そういう元気を見せるために、僕ら 「オッサン探偵団」 は、ここ5年ほど、川の生き物を “探偵” しています。昔のいたずら坊主がチームを組んで、今は、古来より 「清流の女王」 と言われてきたアユの生態を研究することにチャレンジしています。
去年の夏は、水中メガネとシュノーケルを整えました。 そして、水中カメラを使い、「アユはどうして暮らしているんだ?」 というテーマに沿って、ずっと “探偵” してみました。 そして、今年の春から秋にかけて 「アユは、どこまで川を登るんだ?」 という謎について “探偵” してみるつもりです。
▼ 池田さん
ところで、「年魚」 (ねんぎょ) という言葉をご存知ですか?
ハヤやウナギ、コイやフナ。 それらの魚は、何年もの年月をかけて大きく成長していきます。 ところがアユは、一年で生命を終える魚です。 それを 「年魚」 といいます。
アユは、春になれば、海から生まれた川に戻ってきて、そこで成長し、大人になった秋に、川の石の上に卵を産み付けで死んでいきます。 実にロマンに満ちた不思議な魚です。
この不思議なアユを5年ほど調べているうちに、「魚道」 という言葉の本当の意味も解ってきました。 魚道とは、川をさかのぼる習性を持つ魚たちが、ダムなどの障害物によって道を塞がれないように、人間の手で設けてあげる “通路” のことです。
魚道は、多くの場合、巨費を投じた公共事業で造られます。 ところが、なぜか失敗してしまうことが多いんですね。 それは、調査不足からくるものなんです。
やはり、生き物に対する調査は、その生き物たちの生態を昔から見守っている隣住民でなければできません。 そこに住む人たちが何年にもわたり、調べ続けないと充分な検証ができないものなんです。
僕ら「オッサン探偵団」の今年のテーマは、その 「魚道」 の探索。 すなわち、魚の登る道をつぶさに調べ、ここは登れたぞ、いやこの魚道は登れないぞ、などということを徹底的に調査します。
そのために用意した道具は、魚道の長さや幅を測るスケール (ものさし) 。 そしてもう一つは、川の水位を測る長い棒、… おっとカメラも必要。
なぜ、普通の人が見たらどうでもいいようなことに、60歳を過ぎた僕らは何年もかけて熱心に取り組むのか。
それは、これから老いを重ねても、 「ジジイと呼ぶな、オッサンと呼べ」 そう言いたいからです。
みなさんも、始めてみませんか。「オッサン探偵団」 を。
【 町田の感想 】 ………………………………………………………………
子供たちのヒーローは、時代によって変わっていきます。 1960年代に幼年期・少年期を過ごした人たちだったら、「ウルトラマン」 。 70年代なら、「仮面ライダー」 。 80年代となれば、「キン肉マン」 とか、90年代ならば 「アンパンマン」 かもしれませんね。
このようなヒーローの原型が出揃ったのが、1950年代に少年時代を過ごした池田さんたちの時代、すなわち (広い意味での) 団塊の世代が子供だった時代です。
ここに出てくる 「イガグリ君」、「赤胴鈴之助」、「スポーツマン金太郎」 というのは、その世代が読んだ少年漫画のヒーローたち。 このほかに、「少年ジェット」、「月光仮面」、「まぼろし探偵」 などというヒーローたちが加わることもあるでしょう。
なかでも明智小五郎探偵と、彼をサポートする小林少年をリーダーとした 「少年探偵団」 というのは、昭和の20年代から30年代ぐらいにかけて少年期を過ごした人たちの絶対的なヒーロー群像でした。
その若い頃のヒーロー像に今の自分を投影しながら、「オッサン探偵団」 という仲間づくりを楽しんでいるというのが、このエッセイの妙味です。 昔の “いたずら坊主” たちが、再び集って “探偵団” を結成。 その目的は 「アユの生態研究」 。 大の大人が、目を輝かせて、少年時代の気分に浸る。 そのことが、そのまま自然との共生を図る人間ドラマになっているというところが素晴らしいですね。
「アユはどこまで川を登るんだ?」 「どういう魚道が、魚を助けることになるんだ?」
童心に返れば、日頃見過ごしそうな 「謎」 が、けっこう大事なテーマに見てくるものです。 世間知をまだ身に付けていない子供の方が、大人よりも “新鮮な世界” を見ているわけですからね。
「若さ」 とは、年齢のことではなく、「謎」 にチャレンジする精神を失わないことかもしれません。
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