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vol.050 フィールドキング・クリーデンス

「CCR (クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル ) 」 というバンドをご存知ですか。1960年代末から70年代にかけて、『雨を見たかい』、『プラウドメアリー』、『ダウン・オン・ザ・コーナー』 などのヒット曲を連発したアメリカのロックバンドです。 同代のビートルズは、都会的でお洒落な曲を作りましたが、CCRはどちらかというとちょっと泥臭い曲が中心でした。 しかし、時アウトドアの空気を伝えるそのアーシーなサウンドには、別の意味でカッコよさがあり、46年経った今も根強いファンが残っています。


今回、当方が新しく製作したキャンピングカーの 「フィールドキング」 は、そのクリアデンス・クリアウォーター・リバイバルにあやかって、「クリーデンス」 というサブネームを付けてみました。

「フィールドキング・クリーデンス」


もともと 「フィールドキング」 という車名は、“野っぱらのガキ大将” という意味を込めたものでした。 そういうアーシーな匂いを持つキャンピングカーに、「クリーデンス」 という言葉は、一層ナチュラルな味わいを盛り込むにはぴったりだと考えたのです。


「フィールドキング」 は、思えば20年ぶりのフルモデルチェンジです。 家具のアーシーな素材感はそのまま残しましたが、デザイン造形などに時代の風を採り入れ、泥臭い匂いが少しはあかぬけたものに変わったと思っています。


キャンピングカーを作り始めた20代のころ、私は、東京や大阪という大都市圏に近いショップさんの作られたクルマを “コピー” していました。 キャンピングカー専門誌に掲載される写真も首都圏のビルダーさんのものが中心になるので、私もそれが時代のトレンドだと思っていたのです。


そのようなキャンピングカーをいちおう本物だとしたら、自分の作るものは、“本物まがい” のキャンピングカー。 それをお客様に買いやすい低価格帯に収めて売っていました。


でもコピーは、結局はコピー。 そこには、自分だけのアイデアもデザインもなく、結局、何が面白いか自分でもわからないまま、しばらくキャンピングカー作りを続けていました。 ところが、結婚してしばらく経って、カミさんからがこう言うのです。


「お父さんの好きなキャンピングカーを作ってみたら? 最初は売れなくてもお父さんしか作れないものが完成させたら、きっとファンができるわよ」 生活のために “売れるもの” を作っていると思い込んでいた私にとって、この一言はまさに青天の霹靂 (へきれき) でした。


では、「自分の作りたいもの」 とは何か? 私は、自然の中で遊ぶことが大好きでした。 だから、大自然とストレートにつながるようなキャンピングカーを作ってみよう。 都会では、機械の歯車の一部となって生活しているような人でも、野原に出れば、そこの王様。 「フィールドキング = 乗っぱらのガキ大将」 というブランドは、この発想から生まれたネーミングです。 室内中央のアーチ型観音扉を開ければ、その先に、アウトドアロケーションが待っている。それがフィールドキングのスタートでした。


あれから “野っぱらのガキ大将” は少しずつマイナーチェンジを重ねてきましたが、やはり20年も同じスタイルを続けていると、さすがに自分でも何か足りないと感じるようになりました。 その足りない点がはっきり見えたとき、このフィールドキング・クリーデンスが生まれたのです。 何が物足りなかったのか。 それは、作り込みでした。 もちろん、これまでも私は、お客様に差し出す商品ではあっても、自分のための 「アート」 のような気分で、納得のいくまで作り込んでいました。 しかし、商品である以上、納期があります。 「…あと、ここをこう仕上げれば…」 と、自分になりにイメージした完成形が思い浮かんだとしても、そこまで作り込んでしまうと、商売としては効率が悪くなる。 商売でやる以上は、ある程度のコストパフォーマンスを追求しなければならない。 ずっと、そう考えてきました。


何でもそうですが、企業というのは 「効率」 で動いていきます。 だから、仕事としてキャンピングカーを作る以上、私も 「効率」 を重視してきました。 仕事を始めた頃は、キャンピングカー専門誌に載っているクルマにちょっと似せた “まがい物” を作ることを 「効率」 だと信じ込んでしました。 確かに、「効率」 を追求するスタイルにはいろいろな考え方があって、最近のキャンピングカーメーカーさんの中には、人件費の安い中国や東南アジアに工場を移転し、短時間のうちに労働力を集中させて合理的なクルマ作りを追求しているところもあります。 私も、同じように考え、限られた時間の中で一台でも多く生産できるクルマというものを考え、自分なりのコストパフォーマンスを続けてきました。


しかし、それは私にっての 「効率」 や 「合理性」 ではないと、気づきました。 今回も、私のカミさんの意見に触発されたのです。


「もう35年もキャンピングカーづくりをやっているのだから、お父さんにしかできないクルマというのがあるあるでしょう? 毎日8時間、年間2400時間。35年で84,000時間。それだけの時間をかけて手を動かしてきたわけだから、お父さんは “慣れ” という一番の効率を身につけているわけじゃないですか。 だから、お父さんが作りたいクルマを作るのが、いちばんの効率いいやり方。お父さんにしかできないクルマを存分に時間をかけて、作ってみたら?」


これまた鋭い意見。 なんと、これにはカミさんのほか、それぞれ独立して家を出ていった息子、娘も同意見でした。家族全員が、「自分の作りたいクルマを作ることが、お父さんの効率だ」 と言ってくれたのです。


よし! それならばこの新しいクルマには、自分がこれまで過ごしてきた時間、アウトドアで学んだ時間、作業を続けた時間 … おっともうひとつ、自分が聞き続けてきた音楽の時間。 その全てをこのクルマに投入してやろう。 そう思って、新プロジェクトをスタートさせました。


いま62歳にして、意気盛ん。新しいフィールドキングに鋭意取り組んでいます。 手をかけてから、もう4ヶ月目。 なんとか形ができてきました。


さて、名前をどうするか? 新しいクルマのコンセプトは毎晩アタマが痛くなるほど考え抜きましたが、名前までは真剣に考えていませんでした。 まぁ、「フィールドキングⅡ (ツー) 」 でいいだろう … ぐらいの程度で考えていたのです。


しかし、「それじゃ気持ちがお客様に伝わらない」 と、またしてもカミさんの鋭い突っ込み。 「このさい、クルマの名前にも、お父さんがいちばん好きなものをつけてみたら?」 そうカミさんに示唆され、私も原点に戻ることができました。


思えば、私の音楽体験の原点には、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル (CCR) があります。 自分にできることは、クルマ作りを通じて、大好きなCCRのビートを叩き続けること。そして、そのエイトビートに合わせて、泥臭いカッコよさを自分なりに洗練させること。


「クリーデンス」 という言葉には、彼らへの憧れがこもっているのです。 その憧れをクルマに込めて作ろう。 20年前はフィールドキングで。 そして、今回はクリーデンスで。 私のキャンピングカー作りは、また新しいスタートを切りました。それは、カミさんや息子や娘が背中を押してくれたから可能になりました。


ところで、「クリーデンス」 とは、どういう意味なのか? ネットで 「クリーデンス」 を検索したら何も載っていませんでした。単に、CCRのメンバーの友人の名前なのだそうです。 でも言葉の響きがいいので、迷わず 「フィールドキング・クリーンデンス」 に決定。 ちなみに、クリード (CREDE) という言葉は名詞は存在します。哲学、信念、原点だそうです。


【 町田の感想 】 ………………………………………………………………


このたびの池田さんのエッセイは、一見すると、新車を開発したというレポートに過ぎないのですが、しかし、そのレポートが“ひとつの物語”になっていて、まるで短編小説を読むような味わいが生まれています。 池田さんに言わせると、 「商品開発とは “物語” を企画すること」 であり、 「商品宣伝とは “物語” を発信すること」 だそうです。


物語とは、何のことでしょう? それは、商品企画に 「人間の情熱」 を盛り込むことと言えないでしょうか。

この商品は、誰がどのようなきっかけで思いついたのか? 開発に至るまでのハードルはどれくらい高かったのか? 困難に遭遇したときのブレークスルーとなったものは何か? その商品は、どれだけの人に支えられて 「形」 になったのか?


要するに、商品が 「形」 を取る前に、どれだけの人間ドラマが展開したのか? ということが 「商品企画の物語化」 を生むのです。


そして、そのような 「物語」 の生命を付与された商品の大半は成功するそうです。 なぜなら、人は、自分が感動できたものに対しては、本能的に対価を払いたくなってしまう存在だからだ、と言われています。 人間が感動できることの最たるものが、「人の情熱」 に触れたときです。 この “新車開発レポート” では、池田さんの情熱と、それを支える家族の情熱が交差するところが描かれています。 だから、これは “新車情報” であると同時に、「家族愛のドラマ」 にもなっているといえるでしょう。


さらに、新しいクルマのネーミングが生まれるところも、ドラマ化されています。 CCR (クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル) という、池田さんが青年だった頃のバンドを紹介することで、池田さんという人がどういう音楽を好み、それによってどういう感性を育み、それが、その先どのような人生を用意したか。 それも簡潔明瞭に描かれています。


今回の池田さんのエッセイは、まさに 「商品企画の物語化」 のシナリオに忠実に沿った形で描かれています。 このような着想は、本来は、広告代理店のようなクリエーティブ集団がいろいろな討議を重ねた挙句に生まれてくるものなのでしょうけれど、池田さんはクルマ作りと同時に、ご自分でそのような作業もなされています。


確かにこれは、「効率」 もいいし、「コストパフォーマンス」 もいい。 池田さんがなかなかのアイデアマンであり、洗練された詩人であり、有能な経営者であることが、そのことからも伝わってきます。

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