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vol.051 気分はいつまでもフィールドのガキ大将

6月のはじめ、名古屋からの来客N氏を空港まで迎えにゆきました。それから次の日の朝まで、N氏と充実した会話が続きました。


N氏。

当社のキャンピングカーをご注文いただいた中野さんのことです。 インターネットが浸透したこの情報化社会。 メールだけでも十分にコミュニケーションが取れる時代にもかかわらず、わざわざ飛行機を使い、泊まりがけで、“遊びの商品” を見に来るなんて、そんな例はあまりありませんよ。 う~ん、心してかからねばと、気を引き締める。


中野さんとの話は多岐に渡りました。 車の話、オートキャンプの話はもちろんのこと、自然と文明の狭間で彼が何を感じているのか、ということも伝わってきました。


彼は、こういいます。 「ホテルに泊まったときは、冷蔵庫がうるさい場合、電源を切る」 「家の中では、カチカチと音を刻む時計は使わない」


しかし、 「カエルの鳴き声、野鳥のさえずりは心地よい」


やはり、根っからのアウトドア派だったんですね。 「なぜキャンピングカーが必要か ?」 とお尋ねすると、きっぱりと、 「山登りと写真撮影のベース基地」 というお答え。 キャンピングカーを使って、昇りゆく朝日の荘重さ、沈みゆく夕陽の優しさに会いにゆくとのこと。


そして、そのような自然の空気に、自分の心が溶けていくのを味わう時間に欠かせないのが、「音楽」 であると、彼はいうのです。


まさに、私の思っていたこととピタリと重なりました。 自然との調和を可能にする乗り物キャンピングカーには、実はもうひとつの可能性があります。 それが、「オーディオルーム」 。 これまでずっとキャンピングカーを製作してきて、「まだ何かが欠けている」 と思い続けてきたものは、実は音楽でした。


「スイート・グッド・ミュージック」。 そう。低音のズンズン迫る音、体に伝わる心地よい空気のビートの鼓動。 それが欠けていました。 そこに思い至った私が、ずっと情熱を持って取り掛かっていたのが 「オーディオルーム」 としてのキャンピングカーだったのです。 それからは、チューンナップウーファーをメインに、専用のスピーカーケーブル、吸音材、スピーカーボックスの見直しに取り掛かりました。


どのような音が鳴っているのかをテストするいい方法は、ただひとつ。 自分が好きで好きでたまらない曲をかけることです。 私は、そのための曲を決めています。 40年前によく聞いていたグラディス・ナイト&ピップスの 『夜汽車よジョージアへ』 。 それをかけてみると、出ていない音はどこか、歪みのある音はどこか。 そんなことも、即座に分かります。


▲ 丸顔のセクシーなクラディス・ナイトさんが思いを込めて歌い上げる 『夜汽車よジョージアへ』 は極上のスイート・ミュージックです


この歌は、また歌詞がいいんです。 恋人とともに、夜汽車に乗って “都落ち” をする若い女性の心を歌った曲です。


彼女の恋人は、ロサンゼルスで 「スター」 になることを夢見ていました。 しかし、都会で生きることの限界を悟り、故郷のジョージアに戻っていくわけですね。 彼女自身は、都会で生きることの便利さも、気楽さも、華やかさもわかっているのですが、そういう生活を捨て、恋人が故郷で再起を図る手助けをしようとしている。 そして、二人を乗せた汽車は、夜の荒野をひたすらにジョージアに。


グラディス・ナイト自身がジョージアの出身だそうです。 だから、この歌は、まるで彼女の自身のことを歌っていると思ったファンが多かったのでしょう。 彼女初の全米ナンバーワンを獲得した曲となりました。


考えてみると、私も20代の頃から、現在の夢を追いかけてきました。 自分の生き方を反映したキャンピングカーを作ってみたい。 でも、それがなかなか見えない。 自分が納得し、ユーザーの方にも喜んでもらえるキャンピングカー。 若い頃からその形を追いかけて40年経ちましたが、最近やっと解りかけてきました。 自分の家族や、いろんなユーザーの方、多くの友人、彼らのアドバイスのなかで少しずつ形ができてきたのです。


今回は、その夢を名古屋から来られた中野さんが、飛行機で運んでこられました。 どうもありがとうございました。


それからもうひとつ。 中野さんからは、次のような気が引き締まる言葉もいただきました。


「私は、一般の流通品の場合は、合理的なコストダウンを図ってリーズナブルな料金になっているものしか買わない。でも職人技にはお金を払います」


う~ん、ズシンときました。 中野さんがわざわざうちに来訪されたのは、私の 「職人技」 が本物かどうか確かめに来られたのです。

頑張りますよぉ ! 絶対ご満足のいくものに仕上げます。


あと10年で、この仕事をスタートさせてから50年目を迎えます。そのときの年齢は73歳。 60年目を迎えるとしたら、そのときの年齢は83歳。 そこまではなんとしても続けたい。 現在63歳。 まだ 「おじいちゃん」 と呼ばないでください。 ずーっと 「現役の職人のおっさん」 でゆきます。


男は年をとっても、ガキ大将のスピリットを持っているものです。 そんなネーミングを、私の車にはつけています。 「フィールドキング (乗っぱらのガキ大将) 」。 都会では、社会の歯車の一つとして生活している人でも、フィールドに出れば少年時代のガキ大将に戻って、気分は 「王様」 。 そんな若さを取り戻せる車作りに励んでいます。


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【 町田の感想 】

「ナンバーワンよりオンリーワン」 一時、そんな言葉がよく流行りました。


「売れ筋ナンバーワンの商品よりも、世界で一つしかないオリジナリティに富んだ商品の方に価値がある」 そんな理論を展開するときに、この言葉はよく使われました。


しかし、「オンリーワン」 が 「ナンバーワン」 に拮抗するためには、オリジナリティだけでは勝負できないものがあることも事実です。 身も蓋もなくいえば、やはり 「クオリティ」 の保証がなければならない。


「オンリーワン」 のクオリティを保証するものとは、いったい何か。 それこそ、20年、30年という年月を重ねることによって獲得された「職人芸」なんですね。


「職人芸」 には抜け道がない。 スタートからゴールまで、一直線に連なる王道しかないのです。


どんなに現代科学の成果を取り入れても、合理的な技術解析を試みても、職人芸の秘密は解き明かせない。 それは、「時間」 という目に見えないものと戦ってきた人だけに授けられた 「神のワザ」 なのですから。


今回の池田さんのエッセイは、どこまでもひたすら 「神のワザ」 をめざす職人のドラマともいえそうです。

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