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vol.041 変わらないものを発見する

50年ぶりに民主党が政権をとった。


子ども手当ての支給や、高速道路の無料化等々……やれ変革だ! 改革だ! と騒いでいるが、何がどう変わっていくのやら……。(キャンピングカー業界においてはどちらにも多少の追い風になるのかもしれないが)


変わっていくもの、変わらないもの、そして変えてはいけないもの……。 そんなことぼんやりと考えてしまいました。


今年の夏、久しぶりに私の育った町、長崎へ。


いろんな歌で有名な「思案橋」から歩いて20分。


若い頃いつも歩いた、ごちゃごちゃ込み合っていた、人々が肩寄せ合って暮らしていた、ちょっと汚れた横丁。


ほんと、久しぶりにぶらぶらと歩いてみました。


高校を出て長崎の町ずっと離れて、たまにゆっくり行ってみるかと、懐かしいあの人に会えるかなと……。でも、そんな都合のいい話あるわけがない。


あの頃の商店街ももうすっかり様変わり。100円ショップにセブンイレブン、マクドナルト。 30年ぶりの下町はもうありませんでした。どこにでもある町の風景に様変わり。


長崎で一番のメインストリートも、東京や大阪と同じチェーン店やブランドショップ。 場末の映画館も若者でにぎわっていたライブハウスも、角のお好み焼きやさんもすっかり姿を消していました。横丁の住民たちもどこへやら……。


すっかり肩を落とし、もう戻れないんだ、あの頃には……となしさが襲う。


『年をとったという自覚は、若い記憶の中に戻れないと感じること、会えない人、行けない場所を実感したときに生まれる』 それが老いの自覚だそうです。


すっかり様変わりした長崎の風景に、私はすっかり老人の気分に。


長崎の町を後にして帰路につくまで、何かもやもやとした気持ちの中で、気がついた。 自分の中で変わらないもの……変わらない記憶、胸の中に染み付いたなつかしさ。 自分自身、30年前とはすっかり変わったけど、変わらない想いがある。


そうだ! なくなった風景、過ぎ去った人……追いかけてもしょうがない。 取り返せない風景とはもうおさらばさ。


さあ、出発の準備始めるぞ!! とり返せない風景とはもうおさらばして、旅に出よう。


車の中に荷物は入れたかい? いつものシャツに、あったかい毛布、なつかしいミュージック。 捨てられないガラクタもいっぱい積めば、それでスタンバイ。 あの頃の宝物、きっとまた見つかるよ。


朝日のあたる海辺の町。 緑の光にあふれたひなびた村。 ちょっと気どった町の、すてきなブライトライト。


出発の準備はもうOK。 さあ、出かけよう。


【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■


老いの自覚というのは、「若い記憶の中に戻れないと感じること、会えない人、行けない場所を実感したときに生まれる」というのは、名言かもしれません。 含蓄のある言葉です。


なぜなら、大人はなかなか「若い記憶の中に戻れない」ということを自覚することがないからです。 いつまで経っても、自分の中にくすぶっている“若さ”をふっ切れない。 ふっ切れないから、逆に、若い人たちや新しい文化の方を「おかしい」と思う。


それは、心のどこかで「自分はまだ若いから、世界のすべてを所有できる」という思い込みがあるからなんですね。


しかし、それでは本当の「成熟」に至ることはありません。 成熟とは、「もう所有できないものがある」ということを知るところから始まるからです。 「失った」という痛みがあるから、「失われたもの」の大切さも分かってくる。


それが大人の“心”というものなんですね。 池田さんのエッセイは、そこのところを深く突いています。


「そうだ! なくなった風景、過ぎ去った人……追いかけてもしょうがない。 取り返せない風景とはもうおさらばさ」


池田さんはそういうわけですが、これは、ひとつの決意です。 つまり、「成熟」への一歩を踏み出す大人の決意といえるでしょう。


だから、 「あの頃の宝物、きっとまた見つかるよ」 という境地が開けてくるのです。


どういうことかというと、大人が生きていくためには、常に「発見」が必要だということなんですね。 その「発見」は、いつまでも自分の中にある“若さ”にこだわっていては訪れない。 むしろ、「若さの喪失」を自覚したときに見えてくるものなんですね。


「あの頃の宝物」は、じっと待っていても、もう向こうからやってきやしない。もう一度新たに「発見」し直さなければならない。 そこにキャンピングカーの旅の意義がある。


池田さんは、そういう思いを込めて、このエッセイを綴っています。 ここでは難しい言葉などひとつも使われていないのに、奥行きのある「大人の心意気」が語られています。

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