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vol.046 熊本県・山鹿市で進む都市型キャンプ場構想

「熊本県・山鹿市で進む都市型キャンプ場構想」私の古い友人の一人に、熊本県でキャンピングカー製作・販売業を営む朝倉信洋さんがいます。朝倉さんは、キャンピングカーを造って販売するだけではなく、それを使用するときの環境整備にも常に気を配っていらっしゃる方です。


【朝倉自動車・朝倉信洋社長】


たとえば、ご自分で手作りのキャンピングカー体験施設を造り、「風の庵」と名づけて、キャンピングカー未経験者にその使い勝手を体験してもらったり、遠方からキャンピングカーでこの地を訪れる人たちに、キャンプ場としてその場所を提供したりしています。


【風の庵】


また、九州のキャンピングカーショーでは、実験的に会場で配るパンフレットを有料化し、その浄財を資金源のひとつに加え、700本の阿蘇山の植林活動を進めました。キャンピングカーは、自然の豊かさを満喫することで本領を発揮するという彼の思想がそこに反映されています。


そんな朝倉さんが、いま遠大なプロジェクトに挑んでいます。


それが、「キャンピングカーと街のコラボ」という標語のもとに進められている「市内地型のキャンピングカー宿泊施設」の構想です。


朝倉さんがそれを思いついたのは、もう2年ほど前。 日本RV協会(JRVA)の広報誌『くるま旅』を見ていて、 「ヨーロッパでは街の中心部にキャンプ場が設けられ、利用客はそこにキャンピングカーを置いたまま、食事やショッピングを楽しむために都市まで出かける」 という記事を読んでからのことでした。


日本のキャンプ場は、その大半が郊外や山奥に造られ、豊かな自然環境を満喫するには適していますが、半面、都会の観光には向いておりません。 しかし、フランスなどでは、たとえばパリ近郊のブローニュの森にあるキャンプ場に投宿したキャンパーは、夜はスーツに着替え、オペラ座でオペラを見物したり、高級レストランでディナーを楽しみます。 ヨーロッパでは、そのような都市型のキャンプ場があちこちに整備されているおかげで、都市から都市をキャンピングカーで回る人たちの人口も増え、またそのような観光客を受け入れる都市の観光産業も栄えました。


しかし、日本はどうか? 日本には、街の観光資源をうるおすようなキャンピングカー専用の宿泊施設というものがまったくありません。 かろうじて、全国にある「道の駅」がその代役を務めていますが、「道の駅」は新しく開発された幹線道路沿いの空き地に造られることが多く、都市内にある伝統的な文化施設と切り離されてしまうために、旅行者にとっては「休息するに便利な“空き地”」に過ぎない場合が多いのです。


そうなると、自動車でその地を訪れた観光客にとっては、道の駅は“トイレと売店のある駐車場”でしかなく、その土地に対する興味も愛情も生まれないでしょう。 道の駅で車中泊する人たちのゴミの不当投棄や、長時間のアイドリングによる騒音・排ガス放出などがよく問題として取り上げられますが、もし観光客がその土地に対する興味と愛情を抱いてくれたなら、そういうトラブルはかなり解消されそうに思います。


それには、道の駅そのものを充実させていくことはもちろんですが、都市の中に、キャンピングカーも入ってこられるような駐車場を持つ宿泊施設を設けるのも、ひとつの手です。


「キャンピングカーはボディが大き過ぎて、市街地に入り込むのは無理?」


いえいえ、最近主流になっているキャンピングカーは、必ずしも大型のものばかりとは限りません。現在は普通のワンボックスカーのサイズのものが増えていますし、中には軽自動車のキャンピングカーもたくさんあります。 そうなれば、街の中心部にだって、キャンピングカーで来て、そのまま泊まれる施設を造ることも十分可能なのです。 もちろん、東京・大阪のような大都市では、そういうスペースを見つけるのは難しいでしょうし、場所があっても使用するときにはコストがかかります。 しかし、地方の中小都市になると、人口の空洞化が進み、店舗も閉鎖され、駐車スペースはあっても1台もクルマが止まっていないような場所がどんどん広がっています。 もし、そういう「シャッター通り」が増え続けている地方都市に、キャンピングカーで訪れる観光客がやってくるようになったら? それこそ、町の商店街は活気を取り戻し、地方の地場産業もそれを契機に活性化を図ることができるでしょう。


朝倉さんは、それを地元の熊本県・山鹿市において実現しようと励んでいます。 山鹿市では、現在、「八千代座」というレトロチックな風情を持つ芝居小屋がリニューアルされ、地元の新しい観光資源として期待されています。さらに、その近くには、新しい温泉施設の建設も進んでいます。 もともとその場所には、かつて宮本武蔵も入浴したと伝えられる「さくら湯」という温泉施設があったのですが、その「さくら湯」が、四国の道後温泉のような復古調の味わいを持つ建物として復活することになったのです(来秋オープン予定)。


【八千代座】


もともと、山鹿市は、数多くの歴史的エピソードに恵まれた町として知られています。市内には宮本武蔵にまつわる伝説も多いほか、赤穂浪士との結びつきも強く、市内の日輪寺には、赤穂浪士17士の遺髪塔があるほど。 そのような歴史が息づく町らしく、商店街には古き良き日本の風情が漂い、舗道を歩いているだけで、どこか遠い夢の世界に連れていってくれるような気持ちにしてくれます。


朝倉さんの計画は、その観光資源に恵まれた山鹿市の中心部に、遠方から訪ねてきた人でも安心して車中泊できるパーキングを造ろうというものです。 もちろん、キャンピングカーも大歓迎。 フルフラットベッドで安眠できるキャンピングカーをその駐車場に置けば、もうホテルの一室をそこに確保できたことと同じですね。あとは、町の中に繰り出して、芝居小屋を見物し、町のレストランや食堂でショッピングや食事を楽しみ、ゆったり温泉に浸かり、湯上がりには居酒屋で冷えたビールを一杯。 そうすれば、町の人たちと観光客の交流も深まり、「また来年もここに来るね」というお客さんも増えるでしょうから、町の活性化も図れることでしょう。


また、山鹿市では、中心部から歩いて15分のところにアユやハヤ、ウナギの川釣りを楽しめる菊池川という川があります。実は、今この河川敷にはオートキャンプ場建設の企画も持ち上がっているのです。それが実現したら、山鹿市は九州一円のみならず、広く西日本におけるキャンピングカー旅行者のパラダイスとして認知される可能性だってあります。


【菊池川】


市内のパーキングで「町の観光」を楽しみ、たおやかに流れる菊池川のキャンプ場では、ゆったりと「自然を満喫」する。 これからの時代は、そのような複合型の滞在システムを備えた観光地の時代になるでしょう。 なにしろ、日本人は、「車中泊」という新しい旅行スタイルを手に入れたのですから、その「車中泊」をいかに積極的に受け入れるかという企画を打ち出した観光地が生き残ります。 山鹿市の「都市型キャンプ施設&河川敷キャンプ場」という構想は、まさにそんな新しい日本人の旅行スタイルにぴったりの企画です。


現在、朝倉さんは山鹿市の地元銀行、商工会などの支援をもらいながら、地元有志の協力のもとに計画を推進し、来年にはオープンしたいという意向を示されています。 なにしろ、これからは地方の文化や経済の復興が、日本全体の活性化を支える時代。もう何から何まで中央に頼る考え方は通用しません。


では、地方の復興はどこから始まるのか。 それは、今まで日本経済を支えてきた大都市部では失われてしまった「自然」を上手に観光と結びつけることです。 現に、この私は、地元の川にアユを戻す運動を5年間かけて続けてきました。 そうしたら、なんと、昨年ついに尺アユ(25㎝)が川に戻ったのです。 アユが戻ったということは、その地方には「美しく豊かな自然が息づいている」ということをアピールする格好な例として機能するでしょう。 「そんな町に遊びに行ってみたい」 そう思う観光客は必ず出てきます。


熊本県・山鹿市に新しい観光システムが生まれるまで、私も朝倉さんの相談役として、この計画のお手伝いをさせてもらうつもりです。


【町田の感想】 ■■■■■■■■■■■■■■■■■■


総務省が、2010年国勢調査の抽出速報集計結果を公表しましたが、それによると、日本の少子高齢化がますます鮮明となってきたことが分かりました。 このような少子高齢化社会の到来は、まず「地域経済の縮小」という形をとって表れます。 このような傾向をそのまま放置すれば、人口の集中している大都市圏と、各地方の「地域格差」はますます広がり、2030年にはほとんどの地域経済が縮小してしまうという予測が立っているといわれています。


その流れを食い止める戦略こそ、各地域の観光政策の振興による交流人口の拡大です。つまり、少子高齢化によって進んでいく「定住人口」の減少を、観光による「交流人口」の増加でおぎなうという発想です。


このような戦略が生まれてきた背景には、観光客の滞在日数を伸ばすという狙いがあります。 現在、日本人の旅行における平均宿泊日数は、3日弱だといわれていますが、これを4日にまで延ばすことで、国内観光消費額を30兆円にまで引き上げることができるという試算もあるのです。


では、観光客の宿泊日数を伸ばすにはどうしたらいいか? 池田さんが紹介する熊本県・山鹿市の例では、今ブームとなっている「車中泊」に目を付け、彼らが安心して安全に泊まれる駐車・宿泊スペースを提供する代わりに、地元の温泉、娯楽施設、飲食店を積極的に活用してもらおうというアイデアが披露されています。


すでに、キャンピングカーを含めた車中泊車専用の宿泊スペースの候補地も決まっているとのこと。 おそらく、市内にこのような“車中泊用の公認スペース”を実現した都市というのは、熊本県・山鹿市がはじめてではないでしょうか。 この画期的なプロジェクトに、私もまた、朝倉さんの依頼があれば、車中泊の統計データや観光産業の取り組み姿勢を報告するレポートなどを探し、何かお役に立ちたいと望んでいます。

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